古代人の嘆き
(中東の、とある地域。砂のなかから古い遺跡が発掘される。
風化したその壁に、古代文字による文章の一部が見つかる)
A 専門家による、文章の解読結果が届きました。
B そうか、いったい何て書いてあったんだ?
A それが……長い文章のごく一部分らしいんですが、現代語に直しますと、「まったく、今どきの老人はがまん強さが無くなったもんだ」だそうです。
B なんだい、今もよく聞く、「今どきの何々は」という嘆きの言葉だったのか。
C しかし、これ、どんな人物が書いたんでしょうね。
今どきの老人について嘆いているんですから、老人より、はるかに上の世代の人ってことでしょ?
B 老人より、はるかに上の世代……。
存命中の人なら、自分も老人だから「今どきの老人は」とは書かんだろうなぁ。
ふむ、たしかに妙だ。
C 今どきの老人……。
B 誰なんだろう、嘆きの主は……。
A もしかすると、当時のイタコか何かがしゃべった言葉じゃないでしょうか?
C (ヒザを打つ) ああ、すでに死んだ人の言葉だとすれば、世代のつじつまが合うな。
彼らにしてみれば、生きてる連中なんか、ぜんぶ若造だ。若造の高齢者たちだ。
なるほど、イタコか。(笑顔)
B イタコでつじつまが合ってどうするんだよ!
だいたいこんなの、壁に苦労して刻んで、わざわざ後世に残すような言葉か?
仮にイタコのしゃべりだったとしても、こんな発言を壁に刻まなくていいだろ。
C たしかに、1字1字彫るのは、当時にしたらかなりの手間ですもんね。
A ひょっとすると、後世の僕らのこういうリアクションをみんな見越した、古代人の遠大なジョークなんでしょうか?
そういうばかばかしい話に熱意を注ぐ人間は、現代にもいるし。
B ううむ、ひとつ謎が解かれたかと思ったら、また大きな謎が……。
C こっちの謎は、おそらく未来永劫解けませんねぇ。
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