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死角から出現した美人

(○○県△△市の市会議員選挙。美島為吉という高齢の男性が、「わがふるさとを美しく」というスローガンをかかげて、初の立候補。
 この人物が、おじいさんとして類を見ない美貌を持っていたために、メディアに「美人すぎるおじいさん」と命名され、全国的に有名になる)

(美島候補の選挙ポスターの前で)
街の人A この人、今えらく有名になってるみたいだけど……。
 「美人すぎる」というコトバがいくら流行ってるからって、おじいさんを描写するのに「美人」は変でしょ。(そもそも、あの「美人すぎる」って形容詞、何なんだよ)
街の人B ははは。だけど、女だけ美人と呼ぶのは、一種の男女差別かもしれませんぞ。
 人は男と女。美男・美女を一緒くたにして、美人でいいじゃないですか。
街の人A そりゃそうですけど……。でもなあ……。
 (ポスターに目をやる)
 たしかに、肌がツヤツヤで、美白で、目がパッチリ大きくて、おちょぼ口から真珠のような歯をのぞかせてキレイだけど。
 (でも、相当なおじいさんなんだよお!)

選挙戦をリポートするテレビ番組のリポーター 美島候補、50代以上の女性から「ナイス・シルバー」「ナイス・G」と高い支持を受けているほか、「あんなおじいちゃんが欲しい」と、子供たちからも意外な人気です。
 一方、男性有権者からは、嫉妬めいたバッシングの声も上がっています。
 はたして美島氏にとって、美人すぎるおじいさんであることは吉と出るでしょうか、凶と出るでしょうか?

(美島候補の演説会。政策の話の最後に、毎回、「美を保つ秘訣」というトークが添えられているせいか、どこでも会は大盛況となる。
 思いのほか、中高年の男性の参加が多い。みな、特に終盤の話に耳をそばだてている)

聴衆A たしかに……あのくらいの年の人にしたら、抜群にきれいだよなあ。
 やっぱ少し、化粧をしてるんだろか? だれか、双眼鏡持ってない?
聴衆B (選挙演説会にそんなの持ってくる奴がいるかよ)
聴衆C あ、持ってますよ。貸しましょう。
聴衆B (ホントに持ってるんかい!)
聴衆D 私、美島さんが街頭で演説してるときに、支持者を装って5回くらい握手したことがあるんだけど、至近距離で見ても、お化粧してるかどうかわかんないんですよ。
聴衆A
 (双眼鏡をのぞきながら)唇の光り方が、ちょっと自然じゃないような……。
聴衆E いわゆる「うるうるリップグロス」、塗ってんでしょ?
聴衆A でも、政策を熱く語るあまり、よだれが出ちゃったと言われたら、否定できない程度のうるみ方だ。
聴衆B 若い美人さんだと、よだれなんてマイナス点になっちゃうけど、お年寄りであればならないからなあ。
聴衆A
 いや、あんだけ綺麗だと、やっぱ、ちょっとなるだろ。
聴衆F あの髪も、ほんとは少しゴマ塩なのに、ぜんぶ綺麗なグレーに染めている気がわしはするのう。
聴衆C
 (後ろをふり返って、人の多さにぎょっとする)この盛会ぶりを見ると、美島さんが「美人すぎるおじいさん」であることは、どうやら吉と出そうですねえ。
聴衆E でも、ここにいる人がみんな、実際に選挙で入れるかどうか、まるっきりわかんないわよ。
聴衆G そりゃそうだ。ここには、単に「あやかりてえ」みたいなヤカラが大勢いるにちがいねえ。(正直にいえば、わしもそうだ)

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