イクサに関する裁断
(20XX年某日。世界中のテレビの画面がザーッと乱れ、そののち真っ白になる。
そこに突然、神様あらわる)
神様 神様だあ~。
人 わわ、神様だ。(ホントに、おわしたんか)
神様 もう、お前らは、いつまでも、いつまでも、いつまでも、あちこちで戦争ばっかりしよって。ワシも、堪忍ぶくろの緒が切れたヮ。
これからは、人間同士の戦いはぜんぶ、「どうぶつしょうぎ」でしか、できないことにしてやる。
人 ええ~?? 「どうぶつしょうぎ」って、あの4マス×3マスの盤でやる、子ども用の将棋ですか?
神様 そうだ、キリンや、ゾウや、ライオンの絵が描かれたコマでやるやつだ。(お前らが作ったとも言えるし、キャラデザインも含めて、わしが創ったとも言えるんだけど)
これから国と国のあいだに何か問題が起きたら、戦争じゃなく、みんな「どうぶつしょうぎ」で決着をつけるんだぞ。
人 ……。
(そんなんで領土をとられちゃったりするのは嫌だなあ。)
神様 それ以外の戦いの道具は、核兵器も戦車も、いまから5時間後にぜんぶ消しちゃうから。
いま空を飛んだり、潜水艦で潜ったりしてる人たちは、それまでに急いで地上にもどりなさい。
人 ひょえ~。なんと突然な。
神様 何をいうか。いきなり消しちゃうより、はるかに親切だろ!
異宗教の間のゴタゴタなんかも、同じように代表者間の対局でスパッと解決するんだぞ。
人 (そこんとこは、神様がおいでになっちゃったら、すごく簡単な気が……)
人 あのぉ……神様がお決めになったことにモノ申すのは、非常にあれなんですけど、「どうぶつしょうぎ」というのはあまりに……。
もうちょっと、何か別の方法になりませんか?
神様 うるさいやつだな。じゃあ、選択肢を与えてやろう。
「どうぶつしょうぎ」か「にらめっこ」、紛争解決手段としてどっちか好きなほうを選べ。
これでも文句言うなら、もう人類ごとパッと消しちゃうぞ。創りそこねちゃったなあと、ワシも思ってんだから。
人 あ、いえ、そんな……。
神様 今から3分以内に、どちらにするか急いで国連で決めるんだ。回答がなければそのまま「どうぶつしょうぎ」だ!
人 3分って……。
(それならもう、そのまんま「どうぶつしょうぎ」でいいわナ。いくら何でも、すべての争い事のケリが「にらめっこ」よりはましだ。
これほど笑い事じゃねえ事はねえ)
神様 銃や刀剣のたぐいもいっさい、地上から消しちゃうからな。小さい「どうぶつしょうぎ」セットを常にポケットに入れて、街でのちょっとしたケンカの決着なんかもそれでやるんだ。
人 (ありゃりゃー。大道将棋、復活だ)
でも……人間同士はそれでおさまるかもしれませんけど……将来、もしかして宇宙人が攻めてきたら、無防備でひとたまりもないんじゃ――
神様 そういう連中も、みんなワシが創ってるんだから心配すんな。(いろんなおもしろいやつ、創ってあるぞお)
人 はあ。(なるほど、神様だ)
神様 そうだな、ついでにこの際、裁判制度もやめて、お金や権利のモメ事もみんな「どうぶつしょうぎ」で解決することにしなさい。
人 わあ、法曹関係者もみんな廃業だあ……。
神様 以上。
おしまい!
(テレビ画面が、また真っ白になったのち、元の番組に戻る。ナマで放送していた番組は、とつぜん状態が回復してアタフタしている)
テレビを見ていた男 この番組、見ながら録画をしてたけど……もしかして、レコーダーに神様の姿も録れているんだろか?
(戻して、神様が現れたあたりを再生する)
再生画面 ……ぶつしょうぎ」か「にらめっこ」、紛争解決手段としてどっちか好きなほうを選べ。
男 ふぎゃあ! ちゃんと録れてるよお!(思わず、画面に手を合わせて拝む)
(この恐ろしい宣告を聞いていた、とある日本のおもちゃメーカーの社長。自社の工場長の家に電話をかける。時は夜)
社長 おい、君いま、テレビ見てたか?
工場長 ええ、見てました。刑事ドラマを見てたら、いいとこで急に……。誰が犯人だったのか、知りそこねちゃったんですが、事はそれどこじゃないですよね。
社長 あたりまえだ。
そうか、それじゃもう見当がつくと思うが、わが社が作ってる「楽しいどうぶつしょうぎ」、明日からフルに増産を始めるんだ。全製造ラインを、あれ用に変えよう。
突然、世界で70億個も欠乏状態になる商品なんて、めったにないからな。
工場長 たしかに。
ただ……あれは、特別な製造ノウハウがいる商品じゃないんで、おもちゃ会社でなくても作れますからねぇ。
だしぬけに、こんなえらいことになった軍事産業なんかも、たぶん必死で参入して来るでしょ。
社長 そうか……彼らも、とりあえずは、そこへ向かうしかないもんな。(戦闘機や戦車の製造ラインって、サッと「どうぶつしょうぎ」用に作り変えられるもんだろか?)
ウチがそういう会社と戦うのは、足こぎスワンボートで戦艦と戦うようなものかもしれんな。
戻る