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お寿司屋さん10のエチケット

(出張先の或る町で、お昼を食べようとしている男。食事がしばらく洋食続きだったので、寿司が食べたくなり、レストラン街を歩いて、空席のある回転寿司の店に入る。
 イスに座ると、寿司が回っている台の下に、赤ワクで囲った貼り紙がしてある)

 「まず、この紙をお読みください。当店をご利用いただくエチケットです」――か。
 気楽さが売りの回転寿司だっていうのに、何だかすごく厳しい店だなぁ。
 なになに――

①割りばしを割るとき、足の指で割らない(割りそこなう可能性が高い)。

 わざわざそんな手間のかかることするやつがいるかよ!
 何だあ、この寿司屋は?

(周囲の客を見回す。
 ごくふつうの人たちが、ふつうの表情で寿司をつまんでいる。
 子供づれの家族客もいる。
 男はけげんな顔で、貼り紙に目をもどす)

②寿司を、大きな音を立ててすすらない。

 麺じゃなくて寿司をすするのは、むしろ熟練を要するんじゃないか?

③誰かとおしゃべりする口の余裕があるなら、寿司を食べよ。

 余計なお世話だ!

④お茶は口から飲むこと。寿司も口から食べること。他の穴は使用しない。

⑤隣のお客さんに寿司を注文しない(あなたが隣の客に注文されたら、どんな気持ちか考えよ)。

 言われなくてもしねえよ。

⑥店のなかで、他のお客さんと肩がぶつかったときは互いにあやまる。

⑦相手を侮辱するような、あからさまなガッツポーズをとらない。

⑧店のなかで日本刀を振り回さない(日本刀レンタル:10分千円 →店員にお申しつけください)。

 もう、寿司とまるで関係ないじゃないか!

(店内を見回す)

 うわ、あそこにほんとうに日本刀が並んでるぞぉ。

⑨大ケガをしたときは、当店の電話でなく、各自の携帯電話で救急車を呼ぶこと。

⑩病院へ搬送される前に、寿司や武器レンタルの会計を必ず済ませること(Suica/ICOCA/SUGOCA使えます)。支払い前の絶命厳禁。

 あ、ちょっと用を思い出したんで、わたし食べずに帰ります。すいませ~ん。

(店をおそるおそる出たあと、次第に小走りになり、最後は全速力で逃げていく)

店主 何だいありゃ。お茶のんで、おしぼりも使ったのに……。エチケットを知らない客だなぁ。
 おーい、塩持ってこーい。

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