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おしゃべり大好き

(パパが箱をかかえて帰宅する)

パパ うちの電気ポット、たぶんもう寿命で、加熱のぐあいがおかしくなってたろ? 帰りにビックリバシカメラで新しいの買ってきたよ。
ママ あら、ありがとう。
パパ 見てたら、ひとつすごくおもしろいのがあってね。
 このごろは電子レンジだとか、車の装置だとか、みんな声を発するようになったけど、これはとびきり楽しいおしゃべりポットなんだ。湯里香が喜ぶだろうと思って。
湯里香(小学1年生) え、ポットがしゃべるの?
パパ しゃべり倒すぞぉ。いいかぁ――。

(ポットを箱から出してテーブルに置き、コードをつないでスイッチを入れる)

ポット お買い上げいただき、ありがとうございます! ボクはとってもおしゃべりなポットだよ。これからよろしくね!
ママ まあ、かわいい声ね。小学生くらいかしら。
パパ 湯里香には、友だちみたいな感じだろ?
 初めて電源を入れたとき専用のセリフとか、底にカルシウムが溜まっちゃったとき掃除をうったえるセリフとか、たくさんメモリに入ってるんだそうだ。
ママ じゃあ、さっそく水を入れてみましょう。

(やかんでポットに水を注ぐ)

ポット やったぁ、水だ!
 ゴク・ゴク・ゴク・ゴク・ゴク……。
 もうちょい入れられるけど、いい?
 よし、腹ごしらえ完了。さぁ、あっためるぞぉ~、パワー全開!
湯里香 おもしろい!

(少しして)

ポット いま、人肌ぐらいの温度になったよぉ。

(お湯がシューシュー音をたてはじめる)

ポット あつい、あつい、あつくて死にそうだ~。しかしこれもご主人さまのため。

(湯が沸騰し、保温状態に入る)

ポット ♪ ボクのお利口しっかり保温で、お湯はいつもぬっくぬくぅ~
♪ ラララ、ラッタララ~

(夕食で湯をたくさん使い、残量が少なくなると、ポットが叫び出す)

ポット 喉が、からからだよ~。水、みず~。
パパ いいかげんだまれえ! いかなる状況でもしゃべり倒しやがって。楽しいを通り越して、やかましくてしかたないじゃないか!
 よっぽどおしゃべりなエンジニアが設計したんだな。
湯里香 うちのクラスにも、こういう男の子いるよ。
ママ ずっとこれじゃ、たまんないわね。電源切っちゃおう。
パパ こんなもん、あした返品だ! 店で、こいつと同じくらい多量に苦情を言ってやる!
ポット ううう……。

(箱に戻され、台所のテーブルに置かれたポット。
 深夜、電子レンジなど台所の電気製品たちが小声でなぐさめる)

 くよくよするなよ。
 声の大きい人に悪人はいないというよ。
 ここじゃ嫌われたけど、広い世のなかには、めっぽうニギヤカなポットが大好きな人だっているさ。

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